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福岡高等裁判所 昭和57年(ラ)92号 決定

抗告人

株式会社大分銀行

右代表者

小尾知愛

相手方

株式会社小杉商店

右代表者

小杉良平

主文

原決定を取消す。

理由

一抗告人は、主文と同旨の裁判を求め〈た。〉

二よつて、判断を加える。

記録によれば、抗告人は有限会社丸二屋黒木茶舗(以下「黒木茶舗」という。)との間において昭和五〇年四月二八日付銀行取引約定書を締結し、手形貸付、手形割引、証書貸付、当座貸越支払承諾、外国為替その他一切の取引に関して生じた債務の履行ならびに黒木茶舗が振出、裏書、引受、参加引受または保証した手形を抗告人が第三者との取引によつて取得したときのその債務の履行について、右取引約定にしたがい、この取引約定に基づく諸取引に関し訴訟の必要を生じた場合には、抗告人本店所在地を管轄する大分地方裁判所を管轄裁判所とする旨合意管轄の定めをなしていること、原告たる抗告人の本訴請求は、被告たる相手方が相被告たる黒木茶舗にあてて振出した約束手形一通を抗告人が右黒木茶舗から裏書譲渡を受けてその所持人となつたことを前提とし、右手形の振出人である相手方及び裏書人である右黒木茶舗を共同被告として右手形金の支払を求めて、黒木茶舗との間において合意管轄のある大分地方裁判所に訴提起したことが明らかである。

民事訴訟法二一条は、訴の客観的併合の場合に限らず、訴の主観的併合についても同法五九条前段の要件をみたす場合にはその適用があると解すべきである。同一手形上の振出人と裏書人の各手形金支払債務は、いわゆる合同債務の関係にあり、密接な実質的関連性があるから、同法五九条前段の「義務カ数人ニ付共通ナルトキ」にあたると解される。そして、同法二一条の併合請求の管轄は、合意管轄による場合も含まれるのであるから、相手方と黒木茶舗とを共同被告として提起した本件手形金請求の訴は、大分地方裁判所の管轄に属するものというほかない。

もつとも、手形金にかかる主観的併合請求について右のとおり同法二一条による管轄を認めるときは、転々流通する手形の特質上、手形債務者は、あらかじめ知ることのできない、自己の後者である手形債務者の管轄裁判所に共同被告として訴提起され、その結果著しい不利益が課せられる虞れのあることも自明のことである。しかし、同法二一条による管轄が認められる結果、共同訴訟人の一部に著しい損害を生ずるものと認められるときは、同法三一条により訴訟当事者間の実質的衡平を図れば足るのであるから、前記不利益を生ずる虞れのあることを根拠に手形金請求訴訟についてのみ別異の法解釈をとるのは相当でない。

その他記録を精査しても、抗告人において殊更管轄僣取の不法な意図のもとに本件共同訴訟提起に及んだものと認むべき特段の事情も窺いえないから、本件が大分地方裁判所の管轄に属しないとして管轄違による移送をした原決定は、失当というほかない。

三よつて、その余の点につき判断するまでもなく本件抗告は理由があるから、原決定を取消すこととして、主文のとおり決定する。

(金澤英一 足立昭二 吉村俊一)

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